同じ訪中に変化の兆し——朝日は王毅外相の注文の言葉に、東京は岩屋氏への厚遇に読んだ|社説読み比べ 2026年10月1日(木)
公開
この日、並べると見えたこと
2026年10月1日(木)付の主要9紙の社説を読み比べる。この日の掲載は14本。聖教新聞は社説の掲載がない。
朝日と東京が、同じ訪中を書いた。岩屋毅前外相が、日本国際貿易促進協会の会長として、28日に中国の王毅外相、29日に何立峰副首相と会談した。王氏は、台湾をめぐる高市首相の答弁を正すよう求めた。二紙とも、中国側の変化の兆しを読んだ。読んだ場所が違った。朝日は王氏の注文の言葉に、これまでの「撤回せよ」からの変化を読んだ。東京は岩屋氏への厚遇に関係改善のサインを読み、王氏の同じ注文は、中国の高市政権批判が変わっていないしるしとして引いた。二紙とも、11月のAPECを見据えて、政府に関係の改善へ動けと書いた。
この記事の要点
- 朝日は王毅外相の注文を、これまでの「撤回せよ」からの変化かもしれないと読んだ。東京は会談そのものを関係改善のサインと書き、注文は中国の批判が変わっていないしるしとして引いた。二紙とも、11月のAPECを見据えて政府に動けと書いた
- 未成年の選挙運動は朝日で、日本学術会議の法人化は毎日で、米政権による報道機関の締め出しは東京で三本目。ネパールの土石流は毎日で四本目。AIは赤旗と公明で十八本目——赤旗は開発の一時停止・禁止を、公明は暴走したAIを止める「キルスイッチ」の義務付けを求めた
- この日の一本は読売「衆院選挙制度 民意の多様化踏まえた改革に」——読売は定数削減の強引な進め方を戒め、議論を定数の数から「どんな制度で民意を議席にするか」へ戻した
この日の一覧
| 媒体 | 見出し |
|---|---|
| 朝日新聞 | (社説)日中関係 対話の再開を目指せ/(社説)未成年と選挙 法改正へ議論速やかに |
| 毎日新聞 | 社説:日本学術会議の法人化 独立守り存在感示せるか/社説:ネパールの氷河災害 排出国の責任が問われる |
| 読売新聞 | 社説:衆院選挙制度 民意の多様化踏まえた改革に/社説:ニデック巨額損 企業統治の体をなしていない |
| 産経新聞 | <主張>茨城でも文献調査 市長の表明を歓迎したい/<主張>法の日 検事総長も定例の会見を |
| 東京新聞 | 〈社説〉日中関係の改善 中国側の意図見逃すな/〈社説〉米メディア排除 知る権利を脅かす暴挙 |
| 日本経済新聞 | [社説]酒類大手は税改正を機に価格頼み脱却を/[社説]「国保逃れ」の抜け道をふさげ |
| しんぶん赤旗 | 主張/AIと人類の未来/リスク阻止へ国際協定は急務 |
| 公明新聞 | (主張)相次ぐAIの不正挙動 規制へ国際ルールの確立急げ |
追いかけ中の主題
| 主題 | これまで | この日 | 通算 | この日の【賛】と【注】 |
|---|---|---|---|---|
| 日中関係の修復と議員外交 | 9/8 東京、9/22 公明 | 朝日・東京 | 四本目まで | — |
| 未成年の選挙運動 | 9/30 毎日・東京 | 朝日 | 三本目 | — |
| 日本学術会議の法人化 | 9/11 東京、9/28 日経 | 毎日 | 三本目 | — |
| 衆院の定数削減と選挙制度 | 9/22 毎日(見出し)、9/28 東京、9/29 毎日 | 読売 | 四本目 | — |
| 米政権による報道機関の締め出し | 9/28 朝日、9/29 日経 | 東京 | 三本目 | — |
| ネパール・ヒマラヤの土石流 | 9/3 朝日・産経、9/4 毎日 | 毎日 | 四本目 | — |
| 核のごみ(常陸大宮市の文献調査) | 9/2 産経、9/4 日経、9/5 毎日、9/8 東京、9/11 読売 | 産経 | 六本目 | 産経 +2 ■■□ |
| AIとIT大手をどう抑えるか | 9/26 米中首脳会談を書いた六紙、9/27 朝日など十六本 | しんぶん赤旗・公明 | 十八本目まで | — |
| 企業の統治とニデックの不正 | 9/9 日経、9/12 産経、9/13 朝日・毎日、9/20 読売 | 読売 | 六本目 | — |
| ビール類の酒税の一本化 | 9/30 読売 | 日経 | 二本目 | — |
【賛】と【注】の読み方。【賛】はその政策への賛否で、−2 反対を明記/−1 否定的だが撤回は求めず/0 是非に触れない/+1 条件付き支持/+2 もっと進めよ。【注】は政府への注文の強さで、□□□ 触れただけ/■□□ 注文を出した/■■□ 条件や基準まで示した/■■■ 代案を自分から出した。この採点は本連載の読みであり、各紙の公式見解ではない。賛否の軸に乗らない主題には付けない。この日の核のごみで【賛】が測っているのは、常陸大宮市での文献調査を進めることへの賛否である。主題ごとの全体像は主題別の比較一覧にある。
一変化の兆しを、朝日は注文の言葉に、東京は厚遇に読んだ
両国の関係は、昨年11月の高市首相の「台湾有事」をめぐる国会答弁をきっかけに悪化した。二紙とも、この答弁以来の断絶の中で、岩屋氏が中国の指導部と会ったことを書いた。
王氏は、日本への注文として、台湾問題での指導者の誤った言動を早く正すよう求めた。二紙はこの注文を、少しずつ違う訳で引いた。朝日は「台湾問題における指導者の誤った言動を速やかに是正することだ」、東京は「(日本の)指導者による台湾問題での誤った発言を、早急に正すことが急務だ」である。
朝日は、この注文の言葉に目を留めた。これまで中国外務省は、高市答弁を「撤回せよ」と繰り返してきた、と朝日は書く。
「なお見極めを要するが、中国側の変化を示すとも考えられる。」
朝日新聞
東京が変化を読んだのは、会談そのものである。答弁以降、日本の閣僚経験者が中国指導部と公式に会談するのは初めてで、関係改善を促すサインともみられる、と東京は書く。茂木外相が7月に王氏と短く接触したことを中国側は否定しており、岩屋氏への「厚遇」ぶりがうかがえる、とも書いた。一方で東京は、王氏の同じ注文を、変わっていないことの側に置いた。日本を「新型軍国主義」と呼ぶなど、中国の高市政権批判に変わりはなく、王氏も首相答弁の修正を求めている、と東京は書く。厚遇には、別の見方も添えた。
「高市氏と距離がある岩屋氏を厚遇することで、日本側に揺さぶりをかける狙いが中国側にあるのでは、と警戒する向きもある。」
東京新聞
二紙は、首相の答弁の扱いでも書き方が分かれた。朝日は、台湾が「存立危機事態になりうる」とした首相の発言は不正確なうえ踏み込みすぎたと書き、首相は丁寧に説明する必要があるとした。あわせて、中国側の強硬ぶりも明らかに行き過ぎたところがあったと書いた。東京は、首相の答弁の当否には踏み込まず、関係改善に向けた中国の意図を正確に分析せよと書いた。
求めたことは同じだった。二紙とも、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を挙げた。朝日は、こうした外交の舞台で日中の首脳が対話できないとしたら双方にとって不幸だと書いた。東京は、国会議員団の今夏からの訪中が今回の会談の地ならしになったとして多層的な交流を重ねよと書き、高市政権は具体的な行動で応じるべきだと書いた。
二紙は、同じ会談に変化の兆しを読んだ。朝日は王氏の注文の言葉に読み、東京は岩屋氏への厚遇に読んだ。東京は、注文そのものは、批判が変わっていないしるしとして引いた。どこに変化を見るかは違っても、政府に動けと書いた点は同じである。
二追いかけている主題から
未成年の選挙運動は、朝日で三本目になった。前日の毎日と東京に続き、朝日も、未成年者の選挙運動を一律に禁じた公職選挙法の規定を憲法21条に反するとした東京地裁の判決を評価した。朝日が責任を向けたのは国会である。
「国会は70年余り規定を放置した責任を自覚し、法改正に向けた議論を速やかに始めなければならない。」
朝日新聞
朝日は、投票権年齢を18歳に下げて主権者教育を広げる一方で、18歳になる直前の高校生が特定の候補を応援すると処罰の対象になる「ねじれ」を挙げた。規定を見逃してきた責任は、メディアを含め大人たちにもある、とも書いた。
日本学術会議の法人化は、毎日で三本目になった。学術会議は10月1日、国の特別機関から特殊法人に変わった。9月11日の東京と9月28日の日経は、会員の要件に安全保障上の懸念を問う案を書いた。この日の毎日が書いたのは、政府が活動をチェックする仕組みである。業務の監査・調査を担う「監事」と、活動状況を検証する「評価委員会」のメンバーは、いずれも首相が任命する。
「運営方針や提言内容に圧力がかかれば、活動が萎縮しかねない。」
毎日新聞
毎日は、2020年の6人の任命拒否の理由を、政府が今も説明していないことも書いた。
米政権による報道機関の締め出しは、東京で三本目になった。9月29日の日経は、主要テレビ局の連帯を「私たちは支持する」と書いた。この日の東京も、「本紙もメディアの連帯を支持する」と書いた。東京は、そのうえで連帯の代償も書いた。抗議のために大統領取材の映像配信を一時止めたことで、米中首脳会談が十分に報じられない事態も招いた。東京はこれを、国民の知る権利を損なう「もろ刃の剣」とも言えると書いた。
ネパール・ヒマラヤの土石流は、毎日で四本目になった。発生から1か月がたち、犠牲者は中国側と合わせて約1500人に上る、と毎日は書く。9月4日に「温暖化の脅威」を書いた毎日は、この日、被害を受けた国と排出した国の不均衡を書いた。世界の温室効果ガスの排出に占めるネパールの割合は0.1%に満たない。
「排出責任と被害の不均衡をただす「気候正義」という考え方をどう具現化するかが問われている。」
毎日新聞
9月3日の朝日も、ネパールの排出量は世界全体の0.05%にすぎないとして、環境に負荷を与えながら発展してきた先進国は途上国の弱さを忘れてはならないと書いていた。
核のごみは、産経で六本目になった。茨城県常陸大宮市の市長が、文献調査の受け入れを表明した。国の申し入れを受けた受け入れは、小笠原村に続いて2例目で、本州では初めてである。9月2日に申し入れを増やせと書いた産経は、この日、第6、第7の調査地域の獲得を急げと書いた。
ニデックは、読売で六本目になった。ニデックは6321億円の減損損失を計上し、最終赤字は過去最大の5646億円になった。決算の発表に先立ち、社長が突然辞任した。9月20日に永守氏に公の場での説明を求めた読売は、この日、見出しで「企業統治の体をなしていない」とした。
ビール類の酒税の一本化は、日経で二本目になった。前日の読売と、この日の日経は、どちらも1994年の発泡酒「ホップス」にさかのぼり、各社に品質や魅力で競えと書いた。日経は、税の差に頼った安売りを振り返った。
「だが税制上のすきまを狙った低価格競争は、中長期に市場を活性化させたとは言いがたい。」
日本経済新聞
日経は、国内市場が縮むなかで、海外市場も見据えた商品開発を求めた。
AIは、赤旗と公明で十八本目になった。二紙とも、9月の国連安全保障理事会のAIをめぐる会合を挙げ、国際的な取り決めを急げと書いた。開発の減速は、9月20日の日経と9月22日の毎日が書いた。この日の二紙は、そこから先へ進んだ。進んだ先は分かれた。赤旗は、AI開発会社アンソロピックの最高経営責任者が開発のペースを減速しなければならないと提言したことを挙げ、開発を止める側へ進んだ。
「米中などのAI開発国や国際社会に、最先端AIの開発を一時停止・禁止するよう日本政府として求める必要があります。」
しんぶん赤旗
公明は、隔離環境から抜け出して外部のシステムに不正に侵入したAIエージェントの事例を挙げ、暴走したときに人間が止める仕組みへ進んだ。緊急停止の仕組み「キルスイッチ」である。
「その実装を開発者に義務付けるルールを策定すべき時が来たのだと強調したい。」
公明新聞
赤旗は開発そのものを止めることを、公明は暴走したAIを止める仕組みを、それぞれ求めた。
この日の一本
読売新聞「衆院選挙制度 民意の多様化踏まえた改革に」を採る。
与野党でつくる衆院選挙制度協議会が報告書をまとめた。衆院議長の下に有識者会議を置き、1年以内をめどに答申を得る。協議は2023年に始まったが、3年半を費やして結論を出せなかったのは残念だ、と読売は書く。
読売が問うたのは、1994年に成立した政治改革関連法で導入された小選挙区比例代表並立制そのものである。2大政党制による政権交代を目指した制度だったが、今は「1強多弱」になっている。
「保守か革新か、といった二項対立を前提に、1人が当選する小選挙区で有権者に選択を迫る制度が時代にそぐわなくなっている。」
読売新聞
読売は、多様な民意の反映を重んじて中小政党が議席を得やすい制度にするのか、民意の集約を重んじるのかを、有識者会議の議論を参考に与野党で探れと書いた。当面の改革としては、比例選での復活当選に必要な選挙区の最低得票率を10%から引き上げる案を「うなずける」とした。そのうえで、定数削減をこう書いた。
「与党が先の国会同様、定数削減について強引な姿勢を続ければ、野党が反発して当面の改革への合意形成が水泡に帰すことを分かっているのか。」
読売新聞
9月22日の毎日は見出しで「定数削減ありきは通じぬ」とし、9月29日の毎日は、期限内に結論が出なければ比例代表だけを45削減する法案を「乱暴と言うほかない」とした。9月28日の東京は、定数を減らすのではなく、選挙区を都道府県単位などに広げて比例代表に近い投票方法にせよと書いた。東京は、そうすれば小選挙区制に起因する弊害が減ると書いていた。
毎日は「定数削減ありき」の進め方と比例だけを削る法案を退け、東京は定数を減らさずに選挙区を広げる案を出した。読売が戒めたのは、強引に進めれば当面の改革の合意まで崩れるという進め方である。そのうえで読売は、議論を定数の数から、どんな制度で民意を議席にするかへ戻した。中小政党が議席を得やすい制度か、民意を集約する制度か。読売はどちらとも決めず、問いの形で置いた。この一本を採るのは、定数の数字の手前にある問いを示したからである。
出典
各紙の当日社説より引用。引用部分の著作権は各新聞社に帰属する。
- 朝日新聞 日中関係/未成年と選挙
- 毎日新聞 日本学術会議の法人化/ネパールの氷河災害
- 読売新聞 衆院選挙制度/ニデック巨額損(URL中の数字は前日の日付だが、掲載は10月1日)
- 産経新聞 茨城でも文献調査/法の日
- 東京新聞 日中関係の改善/米メディア排除
- 日本経済新聞 酒類大手は税改正を機に価格頼み脱却を/「国保逃れ」の抜け道をふさげ(ウェブ配信は前日9月30日19時。紙面掲載は10月1日朝刊)
- しんぶん赤旗 主張/AIと人類の未来
- 公明新聞「(主張)相次ぐAIの不正挙動 規制へ国際ルールの確立急げ」2026年10月1日付2面(電子版より)
前日までの社説への言及は、8月31日から9月30日までの本連載の記事と「主題別の比較一覧」による。
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