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社説の読み比べ

朝日と赤旗が同じ骨組みを書き、「語れ」と「止めよ」に分かれた|社説読み比べ 2026年9月20日(日)

 公開

この日、並べると見えたこと

2026年9月20日(日)付の主要9紙の社説を読み比べる。この日の掲載は11本。聖教新聞は社説、公明新聞は「主張」の掲載がない。

七紙の11本に、同じ出来事を書いた紙は一組も無い。それでも並べると、立場が最も遠い朝日と赤旗が、別の題材で同じ骨組みの社説を書いたことが見える。米国が国際的なルールを踏みにじり(朝日は国際刑事裁判所への制裁、赤旗は世界貿易機関の協定の無視)、日本政府は米国への配慮から抗わない、という骨組みである。そこから求めたものは正反対で、朝日は「語れ」、赤旗は「止めよ」だった。もう一つ、読売と日経が、制度が生んだ商売——障害者雇用ビジネスと民泊——を書いた。読売は規制の不在を、日経は規制の副作用を問題にした。

この記事の要点

  • 朝日(ICC制裁)と赤旗(米国産ジャガイモ)が同じ骨組み——米国がルールを壊し、日本政府は抗わない。朝日の手本は岸田演説の言葉の量、赤旗の手本はカナダの対抗措置
  • ICC制裁は三紙目。毎日(9/3)は米国への直言を求め、朝日は国連総会での発信を求めた。言う相手が、米国から国際社会へ移った
  • 障害者雇用ビジネスと民泊——法定雇用率と民泊新法が生んだ商売を、読売は規制が無いことの問題として、日経は規制が強まるほど形を変える問題として書いた

この日の一覧

追いかけ中の主題

主題これまでこの日通算
米国のICC制裁と日本9/3 毎日、9/6 東京朝日三本目
企業の統治とニデックの不正9/9 日経、9/12 産経、9/13 朝日・毎日読売五本目
投票の方法9/5 公明、9/10 読売、9/11 読売、9/12 毎日・日経産経六本目
AIとIT大手をどう抑えるか8/31 公明、9/3 毎日、9/6 毎日・日経、9/9 朝日、9/13 読売、9/17 公明日経八本目
ドイツの極右9/10 読売、9/12 毎日産経三本目
障害者雇用ビジネス9/17 東京読売二本目
米国産ジャガイモの輸入9/16 東京赤旗二本目
災害に誰が備えるのか9/1〜9/15 に十五本、9/19 公明毎日十七本目

この日の主題は、いずれも論調の目盛り(【賛】と【注】)を付けている六つの主題に入らないため、点は置かない。目盛りの説明と、主題ごとの全体像は主題別の比較一覧にある。

一朝日と赤旗——同じ「米国に抗わない政府」から、「語れ」と「止めよ」

朝日は、高市早苗首相が近く訪米し、国連総会で就任後初めての一般討論演説を行うことを書いた。求めたのは、日本が外交の柱とする「法の支配」、とりわけ国際刑事裁判所(ICC)への支持を明確に打ち出すことである。ICCへは、トランプ米政権が圧力をかけ、8月には赤根智子所長までもが制裁対象に指定された。首相は当初「大変残念」と述べただけで、「弱腰」との批判を浴びてから「日本の立場と相いれない」と表現を強めた。朝日は、その先をこう書く。

「日米関係への悪影響をおもんぱかってか、米国への抗議や撤回の要求はしていないが、日本の主張への信頼を損ないかねない。」

朝日新聞

赤旗は、米国産の生食用ジャガイモの輸入解禁に向けた手続きを書いた。解禁は第1次トランプ政権が、検疫措置の国際ルールを定めたWTO(世界貿易機関)のSPS協定に基づいて求めたもので、日本政府は米国の要請に応え「粛々と手続きを進める」としている。赤旗は、その米国について、こう書く。

「しかし現在、トランプ米政権はWTO協定を無視し、日本からの食料品の輸入に高い関税を課しています。」

しんぶん赤旗

二紙が書いた骨組みは同じである。米国が国際的なルールを踏みにじっている。日本政府は、米国との関係を気にして、それに抗わない。朝日にとってのルールは法の支配であり、赤旗にとってはWTOの協定だが、置かれた位置は同じで、政府の像も同じである。

違ったのは、そこから何を求めたかである。朝日が求めたのは、語ることだった。

「国連演説では、少なくともICCの意義や重要性を語り、変わらぬ支援を示すべきだ。」

朝日新聞

朝日はICC加盟国への連帯の呼びかけを挙げ、トランプ大統領との首脳会談については「最低限」、制裁がこれ以上拡大しないよう働きかけることを求めた。政府が米国に抗議していないと書きながら、抗議せよとは書いていない。手本に置いたのは、2022年の国連総会で「法の支配」という言葉を12回繰り返した岸田文雄首相(当時)の演説である。つまり手本は、言葉の量だった。

赤旗が求めたのは、止めることだった。

「日本政府は、米国の身勝手な要求に膝を屈して手続きを進めるべきではありません。」

しんぶん赤旗

赤旗が手本に置いたのは、トランプ関税に公然と抗議して対抗措置を発動したカナダのカーニー政権である。つまり手本は、行動だった。朝日の宛先は国連総会に集まる国際社会で、米国には「最低限」を求めた。赤旗の宛先は日本政府の手続きそのもので、米国には何も求めていない。

ICCへの制裁は、本連載が追ってきた主題である。9月3日に毎日が首相の対応を「弱腰」と書き、同盟国として直言をいとうべきではないと求めた。9月6日には東京が、米政権によるICC所長への制裁に抗議すらできないありさまだ、と書いた。三紙目の朝日は、抗議を求めなかった。毎日が求めた直言の宛先は米国だったが、朝日が求めた発信の宛先は国連総会である。同じ制裁を前に、言う相手が、米国から国際社会へ移った。

二制度が生んだ商売——読売は規制の不在を、日経は規制の副作用を書いた

読売は、障害者の就労を支援する「障害者雇用ビジネス」について、厚生労働省が国への届け出の義務づけと指導監督を柱とする法規制を検討していることを書いた。業者は全国に46あるとされ、1800社以上が利用しているという。きっかけは那覇市の業者「サンクスラボ」で、仲介で雇われた一部の障害者が実質的な仕事を与えられず、自宅学習を求められていた。

「障害のある人を形だけ雇ったことにして、能力を発揮できる機会を奪うのは、障害者雇用の理念に泥を塗る行為だ。」

読売新聞

読売が穴と見たのは、現在は業者を直接規制する法令がなく、不適切な運営を行う業者がいても国は法的な権限に基づく指導監督ができないことである。そして、この市場が広がった一因を、7月から2.7%になった法定雇用率に求めた。結びでは、国に対して、法定雇用率をただ引き上げるのではなく企業の雇用体制づくりを支援してほしい、と書いている。

日経は、民泊への規制強化が各地で広がっていることを書いた。東京都新宿区は住宅地での営業を原則禁止する方針を打ち出し、民泊を推進してきた観光庁も、自治体が事実上禁じる「ゼロ日規制」を認める方針に転換した。日経は、来年で成立から10年になる民泊新法の民泊、特区民泊、旅館業法の簡易宿所という3種類が混在してわかりにくく、家主が同居する物件と投資目的の物件が同じ民泊とされてきたことを挙げて、こう書いた。

「制度を整理したうえで、一律に禁止・規制するよりも、きちんと運営している物件と不備がある物件で扱いを変えるのが望ましい。」

日本経済新聞

日経が付け加えたのは、規制強化をにらんで、マンションの一室などを旅館業法上の正式な旅館・ホテルとして営業する事例が広がり、そこでも民泊と同じトラブルが生じていることである。

二紙が書いたのは、どちらも制度が生んだ商売である。法定雇用率が仲介業者を生み、民泊新法が投資物件を生んだ。そして商売が制度の趣旨——「共に働く」、地域との共生——から外れた。ここまでは同じで、読売は規制が無いことを問題にし、日経は規制が強まるほど商売が形を変えることを問題にした。読売の答えは国に権限を持たせることで、日経の答えは一律に締めず運営の良し悪しで仕分けることである。読売も、雇用率をただ引き上げるなと国に書いた。制度が商売を生んだことは、読売も見ている。それでも読売が先に求めたのは、権限だった。

三追いかけている主題から

ニデックの不正は、読売で五紙目になった。産経は9月12日に、永守重信氏は自ら説明に立て、と書いている。この日の読売は、調査委員会の報告書が844件の不正を明らかにしたことを書いたうえで、こう結んだ。

「それにしても、カリスマ経営者として名をはせた論客の永守氏が、これほどの不正について、公の場で一度も説明しないというのは、一体どうしたことか。」

読売新聞

産経も読売も、報告書が公表されたあとに書いた。報告書で不正の数は明らかになったが、二紙の注文は同じ一点に残っている。

電子投票は、産経で六本目になった。産経は、香川県知事選で善通寺市が実施した電子投票を書いた。9月5日の公明がインターネット経由の「ネット投票」とは別物だと断ったのと同じく、産経も、電子投票はインターネットを介さないと断っている。違うのは射程で、9月12日の毎日が地方選にとどめたのに対し、産経は投票率の向上と民主主義の基盤強化を挙げて、こう書いた。

「国政選挙への導入も検討したい。」

産経新聞

ドイツの極右は、産経で三紙目になった。読売(9月10日)は戦後の歩みを脅かす台頭として、毎日(9月12日)は守るべき価値が問われる局面として書いた。産経は、懸念をロシアという一点に絞った。

「AfDで懸念されるのは、ウクライナを侵略するロシアへの融和姿勢だ。」

産経新聞

産経は、AfDが州政権を握れば州政府が管理する機密情報がロシアに漏れる恐れがあること、8月にライプチヒの空港で起きたドローンの衝突事件に独政府がロシアの関与を断定したことを並べた。二紙が民主主義の側から書いた台頭を、産経は安全保障の側から書いた。

内水氾濫は、前日の公明に毎日が続いた。公明(9月19日)は排水能力の抜本的な強化を求めた。毎日は、地下の調節池や分水路は有効だが費用と時間がかかるとして、浸水想定区域図の公表(約6割の自治体が未公表)と、貯留槽やアンダーパスの交通規制など、できるところからの対策に降りた。同じ内水氾濫に、公明は抜本策を、毎日は手前の策を求めた。

この日の一本

東京新聞「安保法成立11年に考える 軍産複合体に至る前に」を採る。

安全保障関連法の成立から、19日で11年になった。この日、それを書いたのは東京だけである。

東京が置いた数字は、2015年度当初予算で5兆円弱だった防衛費が、27年度概算要求では8兆9千億円に迫ることだ。そこに、高市政権が防衛産業を17の戦略分野の一つに位置づけたこと、防衛省の有識者会議が「国営工廠」の導入検討を求めていることを重ねた。そして1961年のアイゼンハワー米大統領の退任演説にある「軍産複合体」の警告を引いて、こう結んだ。

「安保法成立後の日本でも同様に軍産複合体が形成され、戦争に向けた準備が進んではいないか。傍観は許されないのです。」

東京新聞

本連載が「防衛費の概算要求と、自衛隊のAI」として追ってきた列は、9月2日から9日まで七本、金額と装備を書いてきた。東京はその同じ数字を、法の成立から数えた十一年の線の上に置いた。年に一度の日付が、数字に向きを与えている。この一本を採るのは、そのためである。

出典

各紙の当日社説より引用。引用部分の著作権は各新聞社に帰属する。

前日までの社説への言及は、8月31日から9月19日までの本連載の記事による。


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