言葉の相談 0120-03-4946
地方議員の現場レポート 第1回

その道は誰のものか――住民相談は「管理者さがし」から始まる

公開

この回の幹

道の穴も、通学路にはみ出した草木も、手を入れる前に確かめることがあります。その場所は誰が管理し、誰が直せるのか。今回読んだ投稿には、議員が住民に代わってこの確認を進め、担当の窓口や制度につないだ例がいくつもありました。

この記事の要点

  • この夏(7月末〜9月上旬)、地方議員の「相談を受けて動いた」投稿を読むと、「区や市だけでは直せない場所」の話がいくつもありました
  • 私道・空き地・警察が所管する道路標示。議員は、困りごとを担当の窓口へ渡す役を果たしていました
  • 2023年4月施行の改正民法で、この「誰が決めるのか」のルールが一部変わりました。ただ、自治体の助成の条件は別にあります
  • 【10月9日 追記】私道の持ち主と補修の決め方が、1963年から2024年まで国会でどう話されてきたかを、会議録からたどって5節に足しました

今回の投稿(2026年8月〜9月)

以下は投稿の要約です。投稿そのものは、各段の下に表示しています。

私道の補修――区は直接は工事できない(東京都葛飾区・おおや けい子区議/8月18日)
私道の補修についての相談が多い、という投稿です。私道は私有地なので区が直接は工事できない。そのかわり、区には私道の整備に、区が定める標準工事費の9割(条件により9割5分)を助成する制度がある、と要件まで添えて紹介しています。

私道を、何年もかけて舗装(東京都国立市・青木じゅん子市議/8月6日)
前から相談を受けていた私道が、地権者全員の同意を得て、市の予算で舗装された、という報告です。相談者が中心になって何年もかけて取り組み、職員による説明会も開いたうえでの工事でした。

空き地の雑草が通学路に(東京都練馬区・倉田れいか区議/9月7日)
空き地の雑草が道にはみ出し、通学路の見通しが悪い、という相談です。土地の適正な管理は本来は土地管理者が行うもの。それでも通学路の安全のため、まずは道にはみ出した分だけを区の担当課に刈ってもらった。そのうえで、土地管理者に早急に適正な管理をするよう要望している、という二段の対応です。投稿の時点では、見通しの悪さは十分には解消していない、としています。

竹と樹木――所有の境目で分けて伐る(愛知県西尾市・山本エイジ市議/8月5日)
通学路が危ないので見てほしい、という相談です。現地では、竹や木が道路へ大きく張り出していました。市の担当課が土地の所有の区分を確かめ、私有地の分は持ち主に管理をお願いする通知を出した。結果、私有地は持ち主が、市有地は市が伐り、見通しがよくなりました。

道路の矢印は警察の所管(埼玉県川口市・もとはし しんご市議/9月3日)
道路の矢印が消えかけている、という相談です。相談のあった進行方向別通行区分の道路標示は警察の所管とのことで、市から警察へ伝えてもらうことになった。一方、現地で見つけた舗装の盛り上がりは市が補修を検討する、と所管を二つに分けて報告しています。

溝のふたの音――市道だったので直った(大阪府茨木市・えんどう こずえ市議/8月18日)
車が通るたびに大きな音がする、という相談です。投稿によると、長年の道路の劣化で溝のふたが浮いていたようです。市道にあたるため修復してもらえた、という報告です。

「翻訳」も議員の仕事の一つ(栃木県足利市・小沼みつよ市議/8月11日)
DMで受けた被害の相談で、現地を見た日の投稿です。現地では「水があふれた」「土砂が流れ込んだ」といった話を聞く、と書いています。どこから水が来たのか、誰の管理の土地か、行政がどこまで対応できるのかを整理する。そのうえで、住民の困りごとを「行政が対応を検討できる形に翻訳して伝える」のも議員の仕事の一つだ、と書いています。

比べてみる

今回の投稿には、議員が現地の状況を確かめ、担当課への連絡や制度の案内につなげた例が並びます。場所によって、誰の管理かは次のように分かれていました。

管理・対応の所管解決までの動き
茨木市(溝のふた)市市が直す
川口市(道路標示と舗装)道路標示は警察、舗装は市矢印は市から警察へ伝え、舗装の盛り上がりは市が補修を検討
練馬区(空き地の雑草)土地管理者はみ出した分だけ区が応急で刈り、土地管理者には早急な管理を要望
西尾市(竹と樹木)持ち主と市に分かれる市の担当課が所有の境目を確かめ、持ち主と市がそれぞれ伐る
葛飾区(私道の補修)私道の持ち主議員が区の助成制度を案内する
国立市(私道)地権者たち相談者を中心に地権者全員の同意を得て、市の予算で舗装。何年もかかった

私有地では、持ち主や管理者は誰か、工事の中身に応じてどんな同意や手続きが要るかを確かめる必要があります。行政は私有地に勝手に手を出せず、持ち主が遠くに住んでいたり、何人もいたりすることもある。そのぶん、対応に時間がかかる場合があります。国立市の私道は、地権者全員の同意を得て舗装が実現するまでの取り組みに、何年もかかったと報告されています。

小沼市議は、被害の状況、土地の管理者、行政の対応範囲を整理して伝えることを「翻訳」と表現しています。住民が感じる「危ない」を、行政が対応を検討できる形に整理して伝える。今回選んだ投稿には、その仕事が見えます。

国の制度とつなぐ――2023年4月施行の改正民法

この「誰が直すのか」の決め方の一部が、2023年4月に変わっています。所有者のわからない土地が増えたことを受け、2021年に成立した改正民法の施行です。

  • 越境した枝:隣の土地の木の枝がはみ出してきたとき、はみ出された土地の所有者は、次のどれかにあたれば枝を自分で切れるようになった。木の持ち主に切るよう求めても相当の期間内に切らないとき。木の持ち主やその居場所がわからないとき。急迫の事情があるとき
  • 共有の私道:私道を何人かで共有している場合の決め方も整理された。穴や陥没を元どおりに直すだけの補修は、改正の前から、共有者の一人でもできると考えられていた。改正で変わった点の一つが、砂利道をアスファルトにするような「形や働きを大きく変えない変更」。以前は全員の同意が要ったが、持ち分の価格の過半数で決められるようになった

ただし、これは民法の話です。自治体の助成を受けるときは、別の条件がかかります。葛飾区の私道整備助成は、私道に関係する地権者と借地人の承諾を条件にしています。民法では過半数で決められる工事でも、助成を使うなら関係者の承諾が要る。私有地の困りごとでは、今も同意の調整が重い仕事になりえます。

同じ年の12月には、空き家についても、そのまま放っておけば、周りに悪い影響を与える「特定空家」になるおそれのある段階(管理不全空家)で、市区町村が持ち主に指導や勧告をできる仕組みが加わりました。練馬区の話は空き家ではなく空き地で、この制度が使われたという報告ではありません。

歴史と比べる――道を三つに分けたローマ、町が道を支えた江戸

古代ローマの法律家ウルピアヌスは、道を三つに分けて論じています。公の道、私の道、そして村の中や村へ通じる道です。三つ目の村の道は、もとが公の費用で造られたか、私の費用で造られたかで、公の道とも私の道ともされました。二千年前から、道は「誰のお金で、誰のものか」で扱いが変わるものでした。

江戸の町では、道は町の一部とされ、その保全や補修の費用は町が負担していました。

ローマでは道の分類と費用の出どころが、江戸では町による維持の負担が、それぞれ記録に残っています。道を誰が支えるのかは、昔から問われてきました。今回読んだ住民相談にも、公と私の境目で起きたものがいくつもありました。

国会ではどう話されてきたか――私道の「判こ」を、誰が集めるのか

【2026年10月9日 追記】この節は、公開後に足しました。国立国会図書館の「国会会議録検索システム」で、私道の持ち主と、その補修の決め方が国会でどう話されてきたかをたどります。発言は要旨です。各段の終わりに、会議録の原文へのリンクを付けています。

早い例――1960年代、私道は「放任の状態」
1963年5月30日の参議院建設委員会で、市川房枝委員は、私道の所有権や賃借権を持つ人が、建築の資材を運ぶのを通さないと言ったらどうなるのか、と尋ねました。建設省の前田光嘉住宅局長は「この私道は明確な法的な規制を実は受けておりません。」と答え、私道を公道にすることなどを検討しているが、個人の財産にかかわるので結論が出にくい、と述べています。
→ 会議録 1963年5月30日 質問/答弁①/答弁②

1969年6月13日の衆議院建設委員会で、内海清委員は「従来の私道の維持管理というものは、御承知のように、いわば放任の状態であった。」と述べ、私道の実態の調査と、一定の基準以上の私道を市町村道に準じて扱うことを求めました。

坪川信三建設大臣は、公共の道路としての実態を備えた私道は地方公共団体が管理を引き継ぐのが望ましいとし、「重要性のある私道についてはそうした方向で推進してまいりたい」と答えました。調査については、答弁がありません。
→ 会議録 1969年6月13日 質問①/答弁/質問②

転機――2007年から2019年、「持ち主の判こ」の重さ
2007年2月28日の衆議院予算委員会第八分科会で、松本文明分科員は、私道の持ち主の相続人が各地や海外に散らばると、舗装のやり直しを区に頼んでも、持ち主の判こをもらってくるよう言われる、と述べ、「世界じゅうを飛び回って判こをもらわなくちゃいけないのか」と訴えました。国土交通省の榊正剛住宅局長は、建築基準法の範囲を超える私権の制限は「基本的に民法上の問題である」と答え、舗装などの助成制度の充実などを、特定行政庁にあらためて周知したいと述べました。
→ 会議録 2007年2月28日 質問/答弁

2018年5月23日の衆議院国土交通委員会で、井上英孝委員は、工事に補助金を出す条件として、共有の私道の全員の同意を求める自治体もあるとして、周知をどう考えるかを尋ねました。法務省の筒井健夫大臣官房審議官は、この年の1月に研究会がまとめたガイドラインで、共有の私道に公共下水道を新しく通す工事は持ち分の価格の過半数で足りることなどを示し、全国の地方公共団体に周知した、と答えました。自治体の補助金の条件を国としてどう扱うかには、ふれていません。
→ 会議録 2018年5月23日 質問/答弁

2019年5月29日の衆議院国土交通委員会で、松本文明委員は、長く管理されないまま使われる私道の舗装が傷んでいるとして、沿道の住民が改善を求めたとき自治体はどう対応しているかを尋ねました。国土交通省の池田豊人道路局長は、自治体は「まずは私道の所有者の責任で行うべき」という対応をしていると思われる、と答えました。自治体独自の補助制度でも、地権者の同意が採択の要件になっている場合が一般的だと聞いている、としています。

委員は続けて、持ち主が誰かを登記所で調べるところから沿道の住民がやらなければならないと述べ、ある私道では「三十年前から舗装の本格舗装をお願いし」、30年余りを経てようやく持ち主の了解が得られる状況だ、と紹介しました。持ち主の権利を制限する法の見直しを求められた石井啓一国土交通大臣は、適正な手続きと正当な補償が必要になるとして、「その検討につきましては慎重であるべきもの」と答えています。
→ 会議録 2019年5月29日 質問①/答弁①/質問②/答弁②

いま――民法は変わった。同意と費用の話は続いている
2022年2月17日の衆議院予算委員会第三分科会で、柳本顕分科員は、地元で「誰が持っているか分からへん土地があるから地権者の了解が得られなくて私道舗装が進まないんです」という声をたくさん聞いてきた、と紹介しました。柳本分科員自身は、その土地が所有者不明の土地かどうかも分からないとして、自治体や市民への広報を求めました。法務省の金子修民事局長は、3節で見た民法の改正で共有の私道の工事を進めやすくする決まりが多く入ったとし、周知・広報に努めると答えています。
→ 会議録 2022年2月17日 質問/答弁

2023年5月18日の参議院厚生労働委員会で、山本香苗委員は、共有の私道などを通して水道管を引く申請に、土地の持ち主の同意を求める自治体について、国が2022年に適切な対応を求めたあとも「いまだに同意書を申請に当たり求めている自治体がございます。」と指摘しました。

厚生労働省の佐々木昌弘審議官は、今後「水道事業者における対応状況の把握に努めてまいりたい」と答えました。委員が求めた改善をどう進めるかには、ふれていません。
→ 会議録 2023年5月18日 質問/答弁

2024年1月24日の参議院予算委員会では、打越さく良委員が、新潟市や石川県内灘町で見た液状化の被害について、私道や塀などの被害は「この自治体の独自支援以外は行き渡らない」と述べました。松村祥史防災担当大臣は、災害救助法の応急修理では、私道などは「修理対象とすることは困難」と答えました。委員が求めた、自治体の独自の制度への財政支援には、はっきりした答えをしていません。
→ 会議録 2024年1月24日 質問/答弁

現場の声と、国会の議論の距離
国会の議論をたどると、1960年代に私道は「放任の状態」と言われ、2018年のガイドラインと2021年に成立した民法の改正で、共有の私道の工事を誰の同意で進められるかが整理されてきました。一方で、自治体が補助や水道の申請に求める同意(2018年・2023年)や、持ち主の権利を制限すること(2019年)については、答弁は、周知、状況の把握、法の見直しには慎重であるべきだ、というものにとどまっていました。

筆者は、ここに今回の投稿を重ねて読みたいと思います。国立市の私道も、地権者全員の同意を得て舗装されるまでに何年もかかりました。2019年に紹介された、30年余りを経てようやく持ち主の了解が得られる状況だという例と、時間の長さで重なって見えます。

葛飾区の投稿では、区は私道を直接は工事できず、かわりに助成制度があると案内されていました。筆者は、国会で語られてきた判この重さは、民法が変わっても、助成を使う段で関係者の承諾として残りうると考えます(3節)。幹で書いた、誰が管理し誰が直せるのかを確かめる仕事は、その長い道のりの最初の一歩にあたります。

社説とつなぐ

社説読み比べで扱った8月31日から9月21日までの社説の記録を「私道」「所有者不明」「越境」「管理不全」などの語で検索したところ、当てはまる記述は見つかりませんでした。

近いのは、9月7日の産経新聞の主張です。スポーツ庁が公立学校の屋内プールなどを新築・改築する自治体への補助率を、2027年度から3分の1から3分の2に引き上げる、と紹介していました。プールの老朽化や気候変動の影響で、水泳の授業を取りやめる事例が目に付く、ともしています。古くなったものを誰のお金で直すのか。大きさは違っても、道の穴と同じ問いです。
→ 社説読み比べ 2026年9月7日(8月31日〜9月12日のダイジェストに収録)

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出典

各議員の投稿は、本文中の埋め込みからXで原文をお読みください。制度・歴史の記述は次の資料によります。


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